平清盛も愛した水で作るビール。open air湊山醸造所のこだわりと秘訣

それゆけハンナマン

 廃校施設の再利用が全国的に注目されて早数年、道の駅として再出発した施設などさまざまな事例があります。今回はハンナの地元千葉から飛び出し一路神戸へ。こちらには水族館やハーブショップ、そしてビール醸造所として地域のコミュニティを形成している場所があります。open air湊山醸造所(以下open air)でビールの醸造(ヘッドブルワー)を務めるアメリカはポートランド出身のベン・エムリック(Ben Emrich)さんに、醸造のこだわりから認知を獲得するまでの方法について、お話を伺ってまいりました!

旧湊山小学校。校内には水族館も

旧湊山小学校。校内には水族館も


 open airが拠点を構えるのは兵庫県神戸市の湊山小学校跡地。その給食室をリノベーションしてビール醸造所にしてしまったというユニークなエピソードがあり、2022年4月から醸造が開始されました。

 醸造責任者を務めるベンさんはビールの本場ポートランドで修行を積み、その後は和歌山のノムクラフト・ブルーイング(NOMCRAFT BREWING)で経験を積まれました。そして旧湊山小学校を複合施設としてリノベーションするプロジェクトにブルワリーの一員として参加され、現在に至っております。

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—–今年のビールはどんな工夫をされたのでしょうか?—–

「基本的にビールは作るたびに少しずつ変化しています。例えば、ホップは毎年同じ場所で育っていても、雨や日照、大気の影響で少しずつ違う味になります。ビールは気まぐれなところがあって、味のバラつきがあるんです。気温が3度変わるだけで味が全然変わってしまいます」

たった3度でですか?!
「差はあると思います。高額な設備があるわけでは無いので、まったく同じものを作ることは出来ないんです。ホップも変わり、すべてが変わります」

(冷静に考えてみれば、そりゃそうですよね…)
「もちろんブルワーはつねに改良を加えたいと思っています。いつも少しずつ改良を試みているんです」

日進月歩なんですね
「定番のビールとしては3種類を用意して、同じようなスタイルになるように心がけています。一方で毎月5種類の新しいスタイルを作っています。楽しむ感覚でね」

日本の夏は高温多湿ですが醸造は難しくないのでしょうか?
「タンクの外側にはジャケットのようなものがあり、グリコール(チラーシステム)で冷やすことができるので、実はそれほど難しくはないんです」

"給食室"でビールの試行錯誤が続く

“給食室”でビールの試行錯誤が続く

—–5つのスタイルとおっしゃいましたが、アイデアを作るのは大変ではありませんか?—–

「難しいですよ(笑)。インスピレーションを得るために外の世界(醸造所の外)を意識します。例えば暖かい季節になってきたので夏らしいビールを作りたい、とすればライトなフレーバーなど。最近ではハイビスカスのフレーバーで作りました」

ハイビスカス!
「ハイビスカスティーが好きなんです。ハイビスカスとローズを使ってハイビスカスビールを作りました。食べ物からインスピレーションを得られたんです。他にはマンゴーとパッションフルーツを使ったり。ジュースが美味しいとビールも美味しいかもしれない、そんな視点を持つと食べ物が面白い味を生み出す期待感があります。アメリカに居た時はブルーベリーが身近な存在だったので、次はブルーベリーベースのビールを作りたいと思っていますし、新しいホップが発明されたらそれを試したいとも思います。なので情報はたえず収集しています」

ビールの苦味をハイビスカスで和らげることができるんですね
「苦味は変えられます。最近のビールはもっとジューシーでフルーティな風味を求めています。苦味はホップから来きます。ビールを煮出す時にホップが苦味を出します。なので温度を下げれば苦味を抑えられます。こうすればよりジューシーでフルーティなフレーバーになってくれます」

「続いてpH」

(お、pH!)
「pHが異なると苦味が強くなり、pHが低いとジューシーな風味が強くなります。ビールのpHが高いとホップの成分を多く引き出せます。その分、苦味が多くなります」

—–温度、pH、ホップと出ましたが、醸造の上で最も重要なファクターは何でしょうか?—–

「どんなビールを作るかによります。ドイツやヨーロッパのビールは様々なフレーバーを楽しむことができます。なので彼らはホップをあまり使いません。スタウトやダークビールを作るならモルトが重要になります。IPAでしたらホップ。ベルギービールなら酵母、といった具合です。それぞれのビールによって重要なファクターは変わってきます」

「もし醸造を始めるのであれば、最も重要なのは水です。なぜならビールを作る根源は水だからです。水にミネラルが多いほどビールの苦味が増します。逆に軟水なら優しい味になります」

鮮やかなラベルが特徴のハイビスカスビール ©︎open air 湊山醸造所

鮮やかなラベルが特徴のハイビスカスビール ©︎open air 湊山醸造所

採水はどこからされているんですか?
「幸いにも日本は国土全体が軟水です。アメリカはほとんどが硬水なので…。なので(硬水で作れる)ラガービールが一般的なんです。私たちは山から流れる井戸水を直接汲み上げて使用しています」

「水の味は明確な違いがあります。例えば都市に行くと水道水から化学物質の味を感じます。一方で私が以前住んでいた和歌山県の有田川は綺麗な水でした。街によって水が変わってしまいます。フィルターを買えば水を浄化できますが、綺麗に越したことはありません」

水の良さが神戸を選んだ決め手ということですか?
「平清盛が関係しています。平清盛が今の醸造所近くに遷都をした歴史があります。水の良さを彼は知っていた、灘が素晴らしい場所であることも頷けます。そんな歴史の上にあるこの美味しい水に感銘を受けたのが決め手でした」

—–今後醸造を検討されている方へのアドバイスを教えてください。—–

「やはり綺麗な水を使うこと、そしてビールをたくさん飲むことです。多くの方から相談を受けますが、クラフトビール作りの経験が少ないと言います。なので経験を積むことが最優先です。また醸造家と話すことも大事です。クラフトビールの世界はとてもオープンマインドなので醸造家の方と話を深め、交友関係を作れるといいですね」

「(なぜオープンマインドなのかといえば)醸造が大好きでその情熱を分かち合いと思っています。クラフトビールの人気が高まれば愛飲者も増えますから、すべてのクラフトビールがよりよい環境で醸造できます。なので私は情報を積極的に共有しています」

—–多くの方に認知を得る秘訣などはありますか?—–

「やはり人との繋がりを持つことだと思います。他のブルワリーと親睦を深めて一緒にビールを作れる可能性も見えてきます。例えば私たちは新しく名古屋に出来るブリュワリーとコラボしたビールを作りました。そのビールはopen airのタップルームで飲むことができます。他にもフェスティバルに参加したり、そうやって仲良くなっていくのが一番ですね」

SNSではどんな工夫をされていますか?
「Instagramが一番フィットしています。注目度が高く、ユニークな投稿をつねに求めているように感じます。Webサイトに写真を載せるだけど面白さが足りなく感じます。なのでSNSでは個性が大事だと思っています。ビールは人から買いますから、会社というよりもその会社で働く人に注目します。Instagramを通じてブルワーと交友を深めていくのが第一歩だと思います」

習慣化が悩みという方は多いと思います。継続するコツはありますか?
「計画的にやることですね。月曜日はコレ、火曜日はコレ、といった具合に。そして写真をストックしておくこと、深く考えすぎずに気軽に撮って投稿ればOKです」

取材後もビールの改良に向けて話し合いが続いていました

取材後もビールの改良に向けて話し合いが続いていました


すべての基礎となる水を、歴史的観点から選ばれているのが非常に印象的でした。お忙しいところ、とても気さくにお答えいただきありがとうございました!
取材:高橋