バイオガス発酵を安定化させる「VFA・TIC管理」とは?海外酪農場の測定事例と手法を解説

アプリケーションノート

バイオガス発酵を安定化させる「VFA・TIC管理」とは?海外酪農場の測定事例と手法を解説

導入:バイオガス発電に求められる発酵管理

再生可能エネルギーへの注目が高まる中、海外では家畜ふん尿や食品残さ(食品廃棄物)を利用したバイオガス発電が広く活用されています。
バイオガス発電では、酸素のない条件下で微生物が有機物を分解する嫌気性消化(メタン発酵)が用いられますが、このプロセスを安定して維持するには、発酵槽の状態を数値で把握することが重要です。
本記事では、海外の酪農場における事例をもとに、発酵管理の指標となる
VFA(Volatile Fatty Acids:揮発性脂肪酸)
TIC(Total Inorganic Carbon:無機炭素による緩衝能)
の考え方、および自動滴定装置 HI 932 を用いた測定手法をご紹介します。

※本記事では以降、揮発性脂肪酸を「VFA」、無機炭素による緩衝能を「TIC」と表記します。

嫌気性消化におけるバイオガス発酵の流れ

嫌気性消化では、微生物の働きによって有機物が段階的に分解され、最終的にメタンを主成分とするバイオガスが生成されます。主な流れは以下のとおりです。

嫌気性消化におけるバイオガス発酵の流れ

  • 有機物が分解され、揮発性脂肪酸(VFA)が生成される
  • VFA が酢酸などの揮発性有機酸へ変化する
  • それらをメタン生成菌が利用し、バイオガスが生成される

この過程で VFA が過剰に蓄積すると、発酵槽内のpH が低下し、メタン生成菌の活性が低下するおそれがあります。
一方で、発酵槽内に十分な緩衝能があれば、酸が生成されても pH の急激な低下を抑えることができます。
そのため、バイオガス発酵の安定化には、VFA濃度と、酸に対する耐性を示す指標をあわせて管理することが重要です。

VFAとは?(日本の研究から見る発酵阻害リスク)

VFA(Volatile Fatty Acids:揮発性脂肪酸)は、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸の総称で、嫌気性消化の途中段階で生成される酸性の中間生成物です。
VFA の濃度は、発酵槽内で「どれだけ酸が蓄積しているか」を示す指標として利用されます。

日本国内の共メタン発酵に関する研究でも、VFA の蓄積が発酵阻害の要因となることが報告されています。

「VFA の蓄積 → pH 低下 → 発酵阻害」となるリスクがあり、その防止には、ふん尿などが本来持つ
「緩衝能力(アルカリ度)」が重要である。

(参考文献)牛ふん尿の共メタン発酵における副資材過剰投入による発酵阻害

このように、VFA の過剰蓄積は pH 低下を引き起こし、結果としてメタン生成菌の活性を低下させるため、
VFA の定期的な把握は発酵管理において重要なポイントとなります。

TICとは?緩衝能を評価するための指標

TIC(Total Inorganic Carbon)は、炭酸・重炭酸イオン・炭酸イオンなどの無機炭素の総量を示す指標です。
バイオガス発酵の現場では、TIC は発酵槽内の pH を安定させる力(緩衝能)を評価するための目安として利用されます。

VFA が増えて酸性になっても、TIC が高ければ pH の低下は緩やかになり、メタン生成菌にとって安定した環境を保つことができます。
日本の研究では、この「pH を安定させる力」を「アルカリ度」や「緩衝能」として評価することが多く、
海外で使われる TIC(無機炭素による緩衝能)と同じ役割を果たします。

そのため、VFA とあわせて TIC(またはアルカリ度・緩衝能)を管理することで、発酵槽の健全性をより正確に評価できます。

海外酪農場における TIC・VFA 測定の実例

家畜糞尿や食品残さといったバイオガス発酵の現場

海外の大規模酪農場では、家畜ふん尿に食品残さを混合し、嫌気性消化によるバイオガスを生産しています。
発酵槽の安定運転とトラブルの早期発見を目的として、自動滴定装置 HI 932を用い、
TIC と VFA の定期的な測定が行われています。

測定の目的

  • 発酵槽の酸性化を早期に把握する
  • メタン生成菌の活性低下を未然に防ぐ
  • バイオガス生産量の安定化につなげる

サンプル前処理

  1. 発酵液サンプルを振とうし、均一にする
  2. ろ紙で固液分離し、ろ液を採取する
  3. ろ液 10 mL をビーカーにとる
  4. 蒸留水を加え 50 mL に調整する

TIC 測定(pH 5.0 エンドポイント)

0.1 N HCl を用いて pH 5.0 まで滴定し、消費された酸の量から
TIC(無機炭素による緩衝成分)を算出します。

VFA 測定(同一サンプルで pH 4.4 まで滴定)

TIC 測定後、同じサンプルを用いてさらに pH 4.4 まで滴定し、
その追加の酸消費量から揮発性脂肪酸(VFA)を算出します。

HI 932 は、これら 2 つの滴定を連続して自動実行できるため、
作業負荷を抑えながら再現性の高い測定が可能です。

製品導入例:HI 932(TIC・VFA の自動滴定に対応)

バイオガス発酵の管理には、pH を指標とした電位差滴定(ポテンショメトリック滴定)※1が有効です。

  • 固定 pH エンドポイント(5.0/4.4)に対応
  • TIC → VFA の連続滴定が可能
  • 測定データの保存・活用に対応

※1.電位差滴定(ポテンショメトリック滴定)とは、pH電極を用いて溶液のpH変化を連続的に測定しながら終点を判断する滴定方法です。
指示薬を使わず、数値で管理できるため、自動化や再現性に優れています。

電位差自動滴定装置イメージ

⇒ 製品詳細:
HI 932(製品ページ)

まとめ(要点)

項目 内容
VFA 嫌気性消化で生成される酸性中間生成物。過剰蓄積は pH 低下と発酵阻害につながる。
TIC(緩衝能) 発酵槽の pH を安定させる力の指標。日本ではアルカリ度・緩衝能として評価される。
管理のポイント VFA と TIC(またはアルカリ度)をあわせて管理することで、発酵状態をより正確に把握できる。
測定手段 HI 932 による自動滴定で、TIC・VFA を効率的に測定可能。
※本記事は Hanna Instruments 本社のアプリケーションノートをもとに翻訳・編集しています。(No.14-002-11-001)

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