【解説】ハンナ インスツルメンツの吸光・分光光度計: 測定原理と干渉・妨害物質について

アプリケーションノート
水質測定器メーカー ハンナ インスツルメンツ・ジャパン
分光光度計と吸光光度計で比色測定する際、サンプルの濁度や化学物質の相互作用などが原因で測定妨害が起きるケースがあります。干渉軽減のためには希釈、サンプルろ過、pH調整などのテクニックが有効です。
世界46か国で展開する水質測定器の専門メーカー
ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社

比色測定とは

 比色測定は光の吸収量または発光量を計測し定量化することで、測定サンプル内の物質濃度を決定します。これは事前に読み込んだ基準値と比較して物質がどのように光を吸収または放出するかを評価するものです。

 光の吸収や発光が大きいほど分析対象物質の濃度が高いことを示し、その濃度は100万分の1(ppmもしくはmg/L)、10億分の1(ppb)などの単位で測定されます。計測には自然光または人工光が使用されます。かつては光度計や光コンパレータのような簡易的な道具が使われ、目視で光の強さを認識していました。これらを原点として今日では、高精度な光電式光度計の開発につながっています。

 この記事ではハンナ インスツルメンツの光度計を紹介し、正確な光度測定値に影響を与える要因を探ります。測光科学の理解を深める一助となれば幸いです。

比色測定の原理

吸光光度計/分光光度計とは?

 吸光光度計は、異なる波長を持った物質における光の吸収度合を測定するために設計された光学機器です。

 通常は、光源、特定の波長を選択する単色光源、サンプルホルダー、検出器、データ表示または記録システムで構成されています。サンプルが吸収する光の量を測定することで、サンプルの組成や特性に関する知見を得られます。

吸光光度計と分光光度計の比較

 吸光光度計はフィルターを用いて特定の波長や色に焦点を当て、より的を絞った測定を行います。一方で分光光度計は、光の全スペクトルを測定し、異なる波長に関する詳細な分析を可能にします。ハンナ インスツルメンツでは、シングルパラメーター(単項目)とマルチパラメーター(多項目)の吸光光度計に加え、ラボ用に開発された分光光度計(HI801)をラインナップしています。

吸光光度計
 吸光光度計はフィルターを使って特定の波長の光を分離します。比色計は、エッジバンドフィルターまたは類似のシステムを使用して光を色成分に分離し、それを人間の目に基づいたマッチングカーブに当てはめることで、人間の目に見える色に基づいた色値を生成します。

 人間の目で判断できれば理想的ですが、スペクトルの狭いポイントでの発光スパイク(特定の光が強い状態)など、人間の目には見えないデータについては判断がつきません。これは分光データになるため、分光光度計が必要です。


分光光度計(HI801)
 分光光度計は、あらかじめ指定された波長だけでなく可視光すべての波長のスペクトルを測定できることが、吸光光度計と異なる点です。分光光度計は、白色光から特定の波長の光を分離することで機能します。

 また回折格子などの特殊なシステムを使って光をさまざまな色に分け、センサーを配列して各色を測定し、詳細なスペクトルデータを分析できます。吸収波長を幅広くとらえることができるため、実験室での精密な分析に適した高品質の測定器です。

吸光度測定の原理

 比色分析は多くの物質が互いに反応して色を形成し、その色が測定対象物質の濃度を示すという原理に基づいています。物質が光強度 Io のビームに曝されると、放射線の一部が物質の分子に吸収され、光強度 I の放射線が放出されます。この強度の差が比色測定の結果として表れます。

 光度計を使用する際は、ビール・ランバートの法則(下記参照)に従って光路長を一定に保つため、ブランク(ゼロ)測定とサンプルを反応させた読み取りを行う際に、同じ位置にガラスセルを挿入することが重要です。 HI96およびHI97シリーズには、キャップにロック用のインデックスタブが付いており、毎回同じ向きでガラスセルを挿入できます。

吸収される放射線の量は、ビール・ランバートの法則で与えられます:
A = log Io/I

また、吸光度は次式で与えられます:
A= ελ – C – l

ここで
A は無次元数
ελは比例定数で、モル消光係数またはモル吸光係数
Cは物質の濃度(mol/リットル)
lは光が試料を通過する光学距離(cm)

測定器の特徴をまとめると以下のようになります:
– 発熱の少ないLED
– 8 nm狭帯域干渉フィルター:±1 nmの精度を持ち、光効率を25%向上
– 安定した光出力のためにLEDへの電圧を変調する基準検出器
– ガラスセルの不完全性による誤差を低減する凹型集光レンズ

 ハンナの吸光光度計と分光光度計は、340nmから900nmのスペクトルレンジを備えており、幅広い分析法を選択することができます。またレンジの幅が用途や規制値に準拠した測定を可能にしています。
* 例えば、シリカ光度計の場合、固定波長466nmに狭帯域干渉フィルターがあります。 分光光度計(HI801)では、340~900nmの幅広い波長域を選択できます。

測定干渉・妨害物質のメカニズム

測定干渉とは何か?

 測定干渉は、測定対象物質以外の要因が吸光度測定の精度と正確さに影響を与える現象です。これは測定結果の誤認につながる可能性があるため、その要因を特定し軽減策を実施することが極めて重要です。

測定の干渉はなぜ起こるのか?

 干渉は吸収波長が類似した他の物質の存在、サンプル中の不純物、装置の限界など、さまざまな理由で発生する可能性があります。干渉の根本的な原因を理解することは、その影響を最小限に抑えるための戦略を考案するのに役立ちます。

測光と比色における干渉は、以下の要因によって引き起こされます:

測定サンプルの濁度
 サンプル中の浮遊物は濁りや混濁の原因となります。比色計や分光光度計を使った比色測定では、試料を通過する光の一部が試料中の固形物によって散乱されます。散乱された光は透過せず、透過しない光は装置によって吸収されると仮定します。

 このためサンプルの濁りはほとんどの比色測定法において計測値を高くしてしまいます(正の干渉)。一方で漂白化学を利用する測定法では数値が低くなるケースがあります(負の干渉)。

化学干渉
分析化学において、分析対象物質以外の物質が測定プロセスと相互作用し、結果の精度と信頼性を損なう場合に発生します。このような干渉は、不揮発性化合物の生成、分析対象物のイオン化、化学平衡のシフトなどの形で起こります。

 不揮発性化合物は、霧化や気化の際に分析対象物を捕捉し、正確な測定を妨害する可能性があります。イオン化は分析物の化学形態を変化させ、検出性に影響を与えます。化学的環境の変化や不純物も意図した反応を阻害し、不正確な測定につながる可能性があります。正確で信頼できる分析データを得るためには、これらの干渉を理解し対処することが極めて重要です。

マトリックス干渉
 サンプルのマトリックス(サンプルの他の成分)が分析対象物や試薬と相互作用し、吸光度や光の透過に影響を与えることがあります。

測定干渉の検出方法

 ハンナの光度計は、他の多くの光度計と同様に光の吸光または透過の原理に基づいて溶液中の物質の濃度を測定するように設計されています。光度計は、サンプルの溶液を通して特定の波長の光(通常は可視または紫外域の光)を照射し、サンプルを透過した光またはサンプルに吸収された光の強度を測定します。

 ハンナの光度計は、干渉を検出または軽減するために、以下のチェックを採用しています。

標準物質
 ハンナの光度計には、正確な測定を保証するための校正用標準液や標準物質が用意されています。これらの標準物質は、潜在的な干渉を補正するために測定器の校正を可能にします。

ブランク測定(ゼロ設定)
 ブランク測定は、目的の分析物を含まないサンプルを使用して、サンプルのマトリックスや試薬によって引き起こされる吸光度や干渉を考慮するために行われます。

状態確認
 標準物質を用いた定期的な状態確認を行うことで、予想値からの逸脱や干渉の可能性を特定することができます。

スペクトル分析
 一部の高度な光度計では、サンプルのスペクトル分析を行い、干渉が起こる可能性のある特定の波長領域を特定することができます。これは測定に適切な波長を選択するのに役立ちます。

温度制御
 サンプルと光度計の温度を一定に保つことで、温度による干渉を最小限に抑えることができます。

分析技術
 干渉が予想される場合、その影響を軽減または補正するために、追加の分析技術を採用します。例えばサンプルの調製法やマスキング剤を使用することができます。

測光・測定における干渉を軽減または管理をどのように実施するか?

 測定の干渉を回避するには工夫が必要です。特定の波長を利用したり、化学的な分離技術を採用するような状況に合わせたアプローチなどが考えられます。このような事前対策は、潜在的な干渉が存在する場合でも、測定結果の精度と信頼性を確保する上で極めて重要です。

 測光・測定における干渉を最小化または軽減するための方法は以下のとおりです。

1.連続希釈法
 濁度の高いサンプルの場合、連続希釈法の採用は不可欠です。これは精度を維持しながら干渉を減らすことで溶液を透明にすることを目的としています。例えば色の濃いサンプルで目標濃度が200ppm/mg/Lの場合、10倍に希釈することで透明度を大幅に向上させることができます。希釈倍率を考慮した測定値の調整は必須となります。

2.サンプルのろ過
 浮遊する粒子を多く含む濁ったサンプルを扱う場合、サンプルろ過が考えられます。ろ過は溶液の透明度を著しく向上させますが、その効果はサンプルの色の濃さや化学組成によって異なる場合があります。この方法の適切性と有効性を判断するには、サンプルの特性を十分に評価することが重要です。

3.pHレベルの調整
 高い緩衝能を特徴とするサンプルの場合、pHを測定可能な範囲内に収めるにはpH調整が極めて重要です。アルカリ性溶液または酸性溶液を使用することで、pHレベルを正確にコントロールすることができ、正確な測定が可能になります。最適なpH範囲を目指すことが、一貫性のある信頼できる結果を得るための鍵となります。


希釈とろ過は濁りの除去に効果的ですが、化学的干渉が持続し測定に影響を与える可能性があることを理解しておくことが不可欠です。

 測光で正確で明瞭な測定を行うには、具体的で計画的なアプローチが必要です。そのためには、さまざまな方法を用い、問題を引き起こす可能性のある事柄について予め知っておくことが必要です。

まとめ

 吸光光度法は、潜在的な干渉要因を明確に理解することで、分析化学やその関連分野において強力なツールとなります。吸光度測定の原理を理解し、干渉物質に注意することで、正確で信頼性の高い結果を得ることができ、科学を発展させ、応用することができます。

よくある質問

Q: 比色分析とは何ですか?
A: 比色測定は、既知の濃度と比較して光の吸収を評価することにより、物質の濃度を決定するために色を理解し測定することを示します。

Q: 光度計と分光光度計は光の吸収を測定する上で何が異なりますか?
A: 光度計はフィルターを用いて特定の波長に焦点を当てますが、分光光度計は光のスペクトル全体を測定し、異なる波長のより包括的な分析を提供します。

Q: 測色における測定の干渉を引き起こす一般的な要因は何ですか?
A: 測定の干渉は、試料の濁り、化学的相互作用、サンプルマトリックスとの相互作用から生じることがあり、吸光度測定の精度に影響を与えます。

Q: ハンナの光度計はどのようにして干渉を検出し、軽減するのですか?
A: 標準液、ブランク測定、品質管理チェック、スペクトル分析、温度制御などの様々な方法を利用して、潜在的な干渉を特定し補正します。

Q: 光度測定における干渉を軽減するために、どのようなテクニックが有効ですか?
A: 連続希釈、サンプルのろ過、pHレベルの調整などのテクニックは、光度測定における干渉を最小限に抑え、結果の精度を高めるための効果的な方法です。