食品工場の漬物塩分管理|屈折計・電極法・銀滴定の違い
秋の野菜で漬物を仕込む季節。「漬け液を塩分計で測れば、製品の塩分も分かる?」と疑問に思ったことはありませんか。実は、透明な食塩水と、糖・酸・うま味成分を含む調味液、野菜そのものでは、向いている測定方法が違います。
一方は仕込み時の食塩配合を、もう一方は完成品を均質化して分析した値を話しているのかもしれません。水に対する割合か、原料を含む仕込み全体か、完成品100g当たりか。分母と試料が違えば、同じ「3%」でも意味は変わります。
いま「漬物の塩分測定」を見直す理由は?
関税中央分析所は2026年6月26日、税関分析法No.103「塩蔵貯蔵野菜等の塩分の定量分析法」を改正しました。この分析法は、輸入品などを税関で分析するための方法であり、食品工場へそのまま義務づけられるものではありません。ただ、塩分を比較するときには、試料の取り方や前処理、分析方法をそろえることが重要だと分かる例でもあります。
食品事業者には2021年6月1日から、原則としてHACCPに沿った衛生管理が求められています。漬物製造でも、厚生労働省が内容を確認した業界手引書などを参考に、自社製品や製造工程に合った管理方法、基準、記録方法を決めます。
HACCPに沿った衛生管理では、原材料や製造工程に応じて危害要因を整理し、必要な管理方法を定め、実施状況を記録・確認していきます。塩分やpHの測定も、製品や工程によっては管理項目の一つとして利用されます。
旧「漬物の衛生規範」に示されていた数値や管理方法を、そのまま現在の法的基準として扱うのではなく、現在のHACCP制度や厚生労働省確認済みの業界手引書、自社の衛生管理計画を確認することが大切です。
漬け液を測れば、製品の塩分になる?
漬け始めは、野菜から水分が出る一方で、漬け液から食塩や調味成分が野菜へ移動します。時間がたつにつれて液と野菜の濃度は変化し、部位による差も生まれます。そのため、漬け液の測定値を、そのまま完成品全体の塩分表示や規格値として扱うことはできません。

漬け液の濃度変化を見る場合は、槽内の採取位置や時間をそろえます。完成品の代表値を確認する場合は、対象ロットから決めた方法で試料を採取し、必要に応じて可食部を均質化して分析します。どちらも「毎回同じ方法」で測定できるよう手順を決めておくと、過去のデータと比較しやすくなります。
屈折式の塩分計は、漬物にも使える?
屈折計は、試料へ光を通したときの屈折率を測定し、濃度へ換算する測定器です。食塩以外の成分をほとんど含まない、比較的単純な水溶液であれば、食塩濃度を手早く比較する方法として利用できます。
一方、漬物の調味液には糖、酢酸、有機酸、アミノ酸など、屈折率へ影響するさまざまな成分が含まれています。ハンナの食塩向けデジタル屈折計HI 96821も、日本公式ページで「食品の測定には不向き」と案内しており、醤油や味噌汁、ラーメンスープなどでは食塩以外の成分も測定値へ影響することが示されています。
食塩以外の成分を含む食品では、それらの成分も屈折率へ影響します。漬け液や完成品の塩分を測定したい場合は、ナトリウムイオン電極、塩化物滴定、外部分析など、測りたい成分と目的に合った方法を検討します。
製品ページはこちら:HI 96821/食塩向けデジタル屈折計
塩分・ナトリウム・塩化物は同じもの?
日常会話では同じように使われることがありますが、分析では区別して考えます。食品表示で使う「食塩相当量」は、ナトリウム量を食塩(NaCl)に換算した値です。
一方、硝酸銀による滴定では塩化物イオンを定量し、条件に応じて塩化ナトリウム(NaCl)相当量へ換算します。ナトリウムイオン選択電極は、ナトリウムイオンに応答します。
そのため、試料中に食塩以外のナトリウム塩や塩化物が含まれている場合は、測定結果が何を表しているかを確認する必要があります。「塩分」という言葉だけで測定方法を選ばず、何を測りたいのか、最終的にどの単位で結果を出したいのかを先に決めておくことが重要です。
| 方法 | 向いている例 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 屈折計 | 食塩以外の成分をほとんど含まない比較的単純な水溶液 | 糖・酸など他の溶解成分も屈折率へ影響。HI 96821は食品測定には不向き |
| イオン選択電極 | ナトリウムなど特定イオンの測定 | 標準液、イオン強度、妨害イオン、電極状態を管理。食塩以外のナトリウム塩を含む場合はNaClそのものとは一致しない |
| 銀滴定(電位差滴定) | 塩化物を測定し、条件に応じてNaCl相当量へ換算 | 試料調製、滴定条件、終点、換算方法などを決める必要がある |
| 外部検査 | 表示、規格適合、検証など、妥当性確認済みの方法が必要な場面 | 試料採取、均質化、保存、依頼項目を検査機関と確認 |
pHも測れば、漬物の安全性が分かる?
pHは食品や製造工程によって、微生物制御や品質管理の指標として利用される場合があります。ただし、pHが自社基準内だからといって、食品の安全性が一つの数値だけで保証されるわけではありません。
塩分、水分活性、温度、加熱の有無、包装、保存期間、原材料、製造環境なども含めて管理します。水分活性は、食品中で微生物が利用できる水の程度を示す別の指標であり、塩分値から一意に換算することはできません。
微生物規格や賞味期限の検証、食中毒原因物質の確認などには、目的に応じた専門検査や専門家による評価が必要です。
自動滴定装置なら、ボタン一つで測れる?
いいえ。まず試料に合った分析方法を決める必要があります。
HI 931は、酸塩基滴定、酸化還元滴定、沈殿滴定、錯滴定、銀滴定などに対応する電位差自動滴定装置で、ISE(イオン選択電極)による直接測定にも対応しています。食品中の塩化物を銀滴定し、条件に応じてNaCl相当量へ換算するメソッドを構築することもできます。

製品ページはこちら:HI 931/電位差自動滴定装置
ただし、HI 931を設置すれば、どの漬物でも同じ条件でそのまま測定できるわけではありません。試料の均質化・抽出・希釈、使用する電極、滴定液、ブランク、終点判定、計算方法などを、試料や目的に合わせて設定する必要があります。
使用する試料、現在の分析方法、必要な報告単位などを事前にお知らせいただければ、必要な構成や測定方法について専任スタッフへご相談いただけます。
滴定では硝酸銀などの薬品を扱います。SDSを確認し、保護具、保管、廃液処理、作業者教育などを含めた安全管理が必要です。既存の手分析や外部検査との比較を行い、自社試料で結果の妥当性を確認してから日常管理へ使用します。
測定法を選ぶ前に、3つだけ決める
- 目的:漬け液の工程管理か、完成品の規格・表示確認か。
- 測定対象:ナトリウム、塩化物、NaCl相当量、配合濃度のどれを確認したいか。
- 必要な信頼性:現場での傾向管理か、妥当性確認済みの方法や外部検査が必要か。
測定回数が少ない場合や、表示・規格の検証が主な目的であれば、外部検査の方が合理的なこともあります。一方、同じ種類の試料を高頻度で繰り返し分析する場合は、自動滴定が候補になります。
HI 931はレンタルで試すこともできます。試料前処理、必要な電極・試薬、メソッド作成、既存法との比較など、実際の運用に必要な範囲は事前にご相談ください。
電位差自動滴定装置 HI 931
酸塩基滴定、酸化還元滴定、沈殿滴定、銀滴定などに対応。食品の塩分管理では、試料や目的に合わせて測定方法を構築して使用します。
まとめ:まず「何を測りたいか」を決める
漬物の塩分管理では、「塩分」という一つの言葉でも、漬け液の配合濃度、ナトリウム量、塩化物量、NaCl相当量、完成品の食塩相当量など、確認したい内容によって適した測定方法が変わります。
また、漬け液の測定値をそのまま完成品の値として扱ったり、屈折計の表示をそのまま食品の食塩濃度として扱ったりすることはできません。試料の取り方や前処理、測定方法、報告単位まで含めて条件をそろえることが大切です。
まずは「工程管理なのか、完成品確認なのか」「ナトリウムなのか、塩化物なのか、NaCl相当量なのか」を整理すると、必要な測定方法を選びやすくなります。
測定したい食品、工程、現在の分析方法、必要な報告単位などをお知らせください。試料や目的に合った測定方法・機種をご案内します。
参考情報
・厚生労働省「HACCP(ハサップ)」
・全日本漬物協同組合連合会「HACCP導入支援」
・消費者庁「栄養成分表示について」
・ハンナ インスツルメンツ・ジャパン「HI 96821」
・ハンナ インスツルメンツ・ジャパン「HI 931」
※本記事は一般的な食品分析・品質管理の考え方を紹介するものです。法令、食品表示、製品規格への適合判断が必要な場合は、所管行政機関、検査機関、食品衛生・分析の専門家へご確認ください。製品仕様・レンタル条件は各ページで最新情報をご確認ください。