酒類総合研究所と考えるワイン分析の手法、そして酒の未来

それゆけハンナマン

酒類総合研究所は、日本酒や焼酎、ビール、ワインなどの酒類に関する研究する場所です。
酒造関係者の皆様にとっては馴染み深いこちらの研究施設、実はハンナのワイン用自動滴定装置をご使用いただいており、縁あって成分解析研究部門の小山様に取材が叶いました。

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—–酒類総合研究所の主な役割を教えてください—–
「酒類業界では中小のメーカーが多く、自社での技術開発などが難しい場合もあるため、実施が難しい研究調査、技術開発支援などを行っております。また、講演会や講習を開催し、多くの酒造メーカーの方に参加いただき技術の普及に努めています」

—–私たちを含め、ワイナリー様では分析手法の違いが生む影響について話題になっています。分析においてランキン法とリッパー法にはどんなメリットとデメリットが考えられますでしょうか?—–
「双方に特徴があります。ランキン法は公定法としても採用されているように、精度的な信頼性が考えられます。その反面、分析自体に時間と手間がかかるため、多くの検体を実施するには不向きなのが現状です。その点リッパー法は比較的操作は簡便で多検体の測定に向いていることがメリットと考えます。実際に酒類総合研究所でもハンナ様のワイン自動滴定器(リッパー法)を用いて分析も行っております」

「リッパー法のデメリットは、比色法で濃い赤ワインを分析する場合に、滴定終点が判定しづらい点です。ハンナ様のワイン自動滴定器の場合、電位差で終点を判別するため、この点は解消されると思われます」

「ランキン法・リッパー法どちらにも良し悪しがある中でどちらを採用するかはワイナリー様での分析点数・頻度、求める精度などによっても異なるものと思われます。ワイナリーの多岐に渡る業務の忙しさ、測定の効率性を考慮するとリッパー法での測定はメリットがあると思います」

ハンナの測定器はリッパー法で自動分析

ハンナの測定器はリッパー法で自動分析

—–YAN測定においてはエタノール法を推奨されますでしょうか?—–
「私たちの方でも、従来法に必要なホルマリンを使用するには厳しいルールを守る必要があるため、これが難しい場合、エタノール法を推奨させていただいております。果汁のアミノ酸組成によって、両方法で測定値に違いを生じることがありますので、ワイナリーにおいて過去に従来法で分析された値と比較する際などは注意を要する場合もあります」

—–やはりワインの分析や測定はすべきでしょうか?—–
「分析値で得られた情報を利用して種々の醸造における判断を行うことができるため、ワインの分析や測定は重要だと思います。従来からのワイナリーでは分析技術は確立している一方で、新規で始められる方は、基本的な知識や情報が不足されている方も見受けられます。そのような方々に、講習等を通して、知識の下地を提供できればと思っています」

「自然派ワインをお作りになられる方もいらっしゃいます。亜硫酸無添加で作られるスタイルが全然あっても良いと思っています。ただ、亜硫酸無添加で醸造するにも分析は必要です。例えば使用する果汁のpHが高い場合、微生物汚染の危険性が高まりますので、このような分析や関連する知識は必須と言えます」

—–ワイナリー様への講習はどのように行われていますか?—–
「平成14年度より実施させていただいており、ワイナリーの製造経験の比較的少ない技術者や新規開業者の方などご参加くださっています。3年に1回の開催としておりますが、近年、そのニーズが高まっておりまして、近年はほぼ1年に1回のペースで実施しており、2月~3月頃の醸造が落ち着いた頃に実施しております」

「内容としては、座学や官能評価実習、分析実習など多岐に渡ります。分析実習では選択式をとっており、基本分析は既に習熟されている方には、還元糖や揮発酸分析など別項目を選択いただける形で実施しております」

—–輸出と海外消費が注目されていますが、日本の酒の強みはどこにありますか?—–
「例えば、日本酒や本格焼酎は日本の文化や伝統と強く結びついていますが、ワインに目を移してみると、日本で醸造用として最も多く扱われている品種といえば、甲州やマスカット・ベーリーA、これらは日本において長年にわたって醸造されてきた品種であり、海外ではほとんど製造されていないため、差別化につながればと期待されます」

甲州やベーリーAの品質は格段に向上していて、品質の高さもまた日本ワインの強みに感じております。これらはOIVの品種リストへの掲載も終了し、EUへ輸出するにあたってラベルに品種名を表示することが可能となりました。現在、私どもの方でも、これらの品種の国内の各産地における特徴についても詳細に調査をしているところです」

「一方で、海外より認知いただくのはまた別の問題で、例えば、ベーリーAなどのアメリカ系交雑種果実にはヨーロッパ種にはない特有の甘い香りがありますが、ヨーロッパの方ではこの香はあまり好まれません。今後の更なる取り組みが必要に思われます」

マスカットベリーA

マスカットベーリーA

普段なかなか聞けない分析手法の差と醸造現場での現実的な問題をご教示いただきました。あくなき探求心が日本ワイン・お酒の質を高め、世界に対する日本の酒文化を成長させていくことを感じます。小山様、ありがとうございました!

取材:鈴木・高橋