陸上養殖とは

水産養殖・アクアリウム
水質測定器メーカー ハンナ インスツルメンツ・ジャパン
陸上養殖とは、陸上施設を用意して水産物を陸地上で飼育し育てる養殖の手法です。海面で行う養殖と比較して生育環境を調整できるため、魚の種類に合致した環境を用意することができます。
世界46か国で展開する水質測定器の専門メーカー
ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社 営業部 高梨

陸上養殖のメリットとデメリット

 海面養殖と比較して陸上養殖のメリットを見てみましょう。

メリット1:生育環境の制御

 人工的に生育環境を制御することが出来ます。光量はもちろん、生育に最も重要な温度を調節できる利点があります。ここ数年の海水温上昇は深刻な問題で、海流の変動はもちろん温度と溶存酸素量は反比例の関係にあるため魚の生息できる領域を変えてしまいます。この問題を解消できるのはメリットと言えるでしょう。
陸上養殖における生育環境の制御
 

メリット2:漁獲量の安定

 環境をコントロールできるため生産できる量も安定させられます。安定供給は家計にも安心感をもたらしますし、漁獲量を正確に予測できれば経済的な負担軽減にも繋がります。
 

メリット3:持続可能性

 日本の漁業は漁獲高を調整して漁業そのものを持続可能なものにする取り組みが歴史的にされてきた背景があります。しかしSDGsが叫ばれる昨今、天然の魚を漁獲することに対する海外からの視線を企業は意識せざるをえないのが現状です。陸上養殖は稚魚の育成から漁獲までを施設内で完結させることができるため、天然資源を減少させず環境負荷の低さが強みです。
 
 デメリットにも目を向ける必要があります。
 

デメリット1:設備投資費

 陸上養殖のためには飼育槽の他に、水を浄化する「ろ過槽」や殺菌装置、脱窒システム、泡沫分離装置などが必要になります。これらは基本的な設備であり、例えばバナメイエビを飼育する場合は造波装置の設置も必須です。加えてこれだけの設備を収納可能な広い敷地を選定することになるため、場所の制約も生まれます。
陸上養殖における設備投資
 

デメリット2:病気と水質管理

 魚の死は経済損失に直結します。そのため各事業者や研究機関はウイルスの侵入に細心の注意を払い、生育に最適な水質の分析に注力しています。pH、塩分濃度、溶存酸素量、アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩など指標は多岐に渡ります。また陸上養殖の知見は国内ですとまだまだ少ないため海外の文献に頼らざるを得ない状態です。海外では大型施設が前提だったりするので日本の事情に直接適応できるわけではありません。魚の種類も異なるため技術的なノウハウの獲得は課題となっています。
 

デメリット3:輸送

 海水を採取する場所と施設の場所が遠いと、輸送コストが発生します。また稚魚の輸送はへい死のリスクと隣り合わせという実情があります。

デメリットの解消に向けて

 億単位の投資が必要になりがちな陸上養殖ですが、1000万円程度で必要な設備がすべてパッケージ化された商材が登場しています。また廃校など現存する施設を利用することで場所の問題を解決しつつ地域社会へ貢献する施設も増えてきました。

 次に水質ですが、こちらは各企業がセンサーを開発中で、近い将来安価で正確な測定器の流通が見込まれています。殺菌技術についてもオゾン殺菌を始めとした次世代型の手法に関する研究も進んでいます。
 
 そして輸送問題ですが、これは企業と物流業者が一体となった方式が脚光を浴びており、へい死対策と2024年問題両方の解決策として注目されています。※養殖ビジネス11月号より

飼育方式

かけ流し式

 海から海水を引いて飼育槽に流し、古くなった飼育水を海に放流する方式です。実際の生息状況と限りなく近い水質での飼育が可能なため、水質管理へのコストを低減できるメリットがあります。一方で菌が混入する可能性があるため殺菌ノウハウの確立は課題となります。殺菌方法は紫外線(UV)が一般的で、最近ではオゾン殺菌も注目されています。
かけ流し式の陸上養殖
 
※使用した海水を排水する際は、自治体が設定した基準を満たす必要があります。
内水面漁業の振興に関する法律施行令の改正に関する Q&A https://www.pref.miyagi.jp/documents/45109/taishitsu-kyoka-2.pdf
 

半循環式

 引き込んだ海水、もしくは人工海水を使用し続ける方式で、海外ではRAS(Recirculating Aquaculture System)と呼ばれています。半循環式は大部分の水を使い続け、一部を排水して新たな水を注水してフレッシュな状態を保ちます。飼育槽のみで完結するかけ流し式に比べて、ろ過槽や殺菌装置が必要になります。
半循環式の陸上養殖
 

閉鎖循環式

 半循環式に比べて閉鎖循環式は同じ水を浄化して使い続けるため理論上、排水をゼロに出来るため環境負荷が低く現代の潮流ともマッチした方式です。ただ自然環境下で行われていることを人工的に再現するため、メリット・デメリットの項で説明した、ろ過槽、殺菌装置、脱窒装置など多くの設備が必要になります。
閉鎖循環式の陸上養殖

最新技術

 餌の周期を分析して自動化させるシステムや、水質監視の遠隔監視はすでに行われています。また養殖事業者にとって悩みの種である海水のアンモニア濃度を測定する技術も活気を見せており、ハンナでも測定器を用意しております。またセンサーの開発に各企業が注力しており、水中の成分をリアルタイム計測できる時代はそう遠くないと言えるでしょう。

 ハンナではpH、塩分、溶存酸素、ORPを1台で計測できる測定器HI 98494や、アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩を1台で測定できる測定器HI 97115Cをご用意。お気軽にお問い合わせください。
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