ハンナのシリカ計を解説。導入実績多数!仕組みとサポート

Q&A
水質測定器メーカー ハンナ インスツルメンツ・ジャパン
環境排水におけるシリカは規制に準拠するべく常時監視されます。半導体製造においては純水にシリカが含まれると製品不良の原因となり、工程の直行率を下げることになります。ガラス製造や飲料水の品質管理、先行開発の現場などシリカの用途は様々です。本記事ではハンナのポータブルシリカ計を中心にご紹介させていただきます。
世界46か国で展開する水質測定器の専門メーカー
ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社

1.測定メカニズム

1-1.測定方法

 ハンナのシリカ計は吸光光度方式を採用しています。使い方は非常にシンプルで、ガラスセルに10mLの測定サンプル(検体)を用意して試薬を添加します。測定器が発色したサンプルに光を照射し、光の透過率から濃度を計測する仕組みです。
ハンナのポータブルシリカ計の測定方法

例:ハンナのポータブルシリカ計の測定方法

1-2.測定原理

 ハンナでは0.00~2.00 mg/Lのシリカを測定できる低濃度タイプHI 977050~200 mg/Lのシリカを測定できる高濃度タイプHI 97770の2種類を要しており、それぞれについて解説致します。

1-2-1.低濃度

 低濃度シリカの測定にヘテロポリブルー法を採用し、ヘテロポリアニオンという無機化合物を用います。ヘテロポリアニオンはシリカと反応し青色に発色するのが特徴です。青色の強度がサンプル中に存在するシリカの量を表しており、光の透過率からシリカ濃度を算出します。
 
 測定には3種類1セットの試薬を使用します。

試薬A:
 試薬Aには含有量30%未満の硫酸(H2SO4)、9%未満の硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)を含み、サンプルの酸性環境を確保します。酸性条件下ではサンプルが青色に発色する反応速度が向上します。硫酸水素ナトリウムは二酸化硫黄(SO2)を発生させ、シリカの還元反応を促進してヘテロポリアニオンの形成を効率よく進めます。反応は次のとおりです。
 
 H2SO4(試薬A) + SiO2(サンプル) → H2SiO4+SO2 [1]
 
試薬B: 
 試薬Bには100%クエン酸(C6H8O7)が含まれ、クエン酸はヘテロポリアニオンの生成時に発生する酸素を吸収し、シリカを効率的に酸化してヘテロポリアニオン形成を促進します。クエン酸による反応は次のとおりです。
 
 C6H8O7(試薬B) + SiO2(サンプル) → H2SiO4 + C6H7O7− [2]

試薬C:
 試薬Cには77%未満の二亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)が含まれています。これは残留酸素や酸性条件を取り除き、シリカの完全な還元を促進します。二亜硫酸ナトリウムとの反応は次のとおりです。
 
 Na2S2O5(試薬C)+SiO2(サンプル)→Na2SiO3 + SO2 [3]
 
 これらの試薬が効率的に機能してヘテロポリアニオンを生成し、サンプル中のシリカ濃度の正確な計測を保証します。

※試薬Aに含まれる30%未満の硫酸が劇物に該当します。
低濃度シリカ計
HI 97705はこちら

1-2-2.高濃度

 高濃度シリカの測定にはモリブド珪酸法を採用し、モリブド珪酸塩錯体という無機化合物を用います。ヘテロポリアニオン同様にモリブド珪酸塩錯体はシリカと反応し青色に発色します。青色の強度がサンプル中に存在するシリカの量を表しており、光の透過率からシリカ濃度を算出します。
 
 液体サンプル中のシリカ測定には次の3種類1セットの試薬を使用します。

試薬A:
 試薬Aに含まれるモリブデン酸ナトリウム (Na2MoO4)は、プロトン (H+) の存在下でサンプル中のシリカ (SiO2) と反応し、ナトリウムイオン (Na+) および水 (H2O) とともにモリブド珪酸塩錯体 ([MoSiO4]2-) を形成します。
 
Na2MoO4(試薬A) + SiO2(サンプル) + H+→[MoSiO4]2− + Na+ H2O [1]
 
試薬B: 
 試薬Bには50%以上の100%未満スルファミン酸が含まれます。試薬 A で形成されたモリブドケイ酸錯体 ([MoSiO4]2-) は、残存するモリブデン酸を還元し、スルファミン酸 (NH2SO3) およびプロトン (H+) と反応して、アンモニウム イオン (NH4+ ) とともにモリブドケイ酸誘導体 ([MoO3SiOH]2-) を生成します。スルファミン酸による反応は次のとおりです。
 
[MoSiO4]2-(試薬B) + NH2SO3 (スルファミン酸) + H+→[MoO3SiOH]2-+ NH4+ [2]

試薬C: 
 試薬Cには100%クエン酸(C6H8O7)が含まれています。モリブドケイ酸塩誘導体 ([MoO3SiOH]2-) は試薬 C 中のクエン酸および酸素 (O2) と反応して、二酸化炭素 (CO2) および水 (H2O) とともに最終的なモリブドケイ酸塩錯体([MoO4Si]4-) を形成します。クエン酸との反応は次のとおりです。
 
[MoO3SiOH]2-(試薬C) + C6H8O7(クエン酸) +O2 → [MoO4Si]4- + CO2+H2O [3]
 
 モリブドケイ酸塩錯体 ([MoO4Si]4-) は青色を放ち、吸光光度計によってサンプル中のシリカ濃度として定量評価されます。
 

※測定妨害物質
リン酸塩
リン酸塩が存在するとモリブデン酸やリン酸が生成され、シリカとの反応を妨害することがあります。

硫化物
硫化物はモリブデン酸を還元し、硫化モリブデン錯体を生成する可能性があります。これがシリカ測定の正確性を損ないます。


鉄は酸化反応を妨害し、クエン酸の酸素供給を妨害し、ヘテロポリアニオンの生成が不完全になります。
高濃度シリカ計
HI 97770はこちら

1-3 光学システム(ポータブルタイプ)

 発光源はLEDを採用。ポータブルタイプは光源後ろの帯域通過フィルターは波長精度±1.0nm。ビームスプリッターを採用しており検出器を2つ設置、これらの仕組みが精度の高い測定を支えています。

※チェッカータイプはLED、測定サンプル、検出器、プロセッサーのみのシンプルな構造となっています。
ポータブルシリカ計光学システム

図:ポータブルシリカ計光学システム

1-4 製品仕様・スペック

ポータブルタイプ
ハンナのシリカ計HI 97705
 ハンナでは4つのシリカ計をご用意。ポータブルタイプは品質管理向けに設計されており、防水、データ保存、校正、トレサビリティ体系図の発行が可能な機種です。0.00~2.00 mg/L(ppm)を測れる低濃度タイプのHI 97705、0~200 mg/L(ppm)を測れる高濃度タイプのHI 97770の2機種です。

 品番 HI 97705 HI 97770
 品名 ポータブル低濃度シリカ測定器 ポータブル高濃度シリカ測定器
 測定物 SiO2
 測定範囲 0.00~2.00 mg/L(ppm) 0~200 mg/L(ppm)
 分解能 0.01 mg/L(ppm) 1 mg/L(ppm)
 精度@25℃ ±0.03 mg/L(ppm) ±測定値の3% ±1 mg/L(ppm) ±測定値の5%
 測定方法 ヘテロポリブルー法 モリブド珪酸法
 データ保存 自動で50データまで
 防水 本体ケースはIP67 ※浸漬や水没には対応していません
 サイズ 長さ142.5×幅102.5×厚さ50.5mm 380g

※チェッカータイプ
ハンナのデジタルシリカチェッカー
 チェッカーはポータブルタイプの廉価版で、測定に必要な機能のみを搭載しています。そのため、校正やトレサなどは非対応となっています。光学システムはLED、測定サンプル、検出器、PICのみ。測定方式はポータブルタイプと同じく、低濃度タイプのHI 705はヘテロポリブルー法、高濃度タイプのHI 770はモリブド珪酸法です。

 品番 HI 705 HI 770
 品名 デジタル低濃度シリカチェッカー デジタル高濃度シリカチェッカー
 測定物 SiO2
 測定範囲 0.00~2.00 mg/L(ppm) 0~200 mg/L(ppm)
 分解能 0.01 mg/L(ppm) 1 mg/L(ppm)
 精度@25℃ ±0.03 mg/L(ppm) ±測定値の3% ±1 mg/L(ppm) ±測定値の5%
 測定方法 ヘテロポリブルー法 モリブド珪酸法
 データ保存 なし
 防水 非対応
 サイズ 長さ81.5×幅61.0×厚さ37.5mm 64g

2.校正機能

 ポータブルタイプには検証と校正機能が内蔵されています。検証は専用のバリデーターを用いることで測定器が測定を正常にできるか、1分以内で確認できます。
 
 校正は、検証結果が許容範囲を超えた際に行うことが出来ます。校正に加えて工場出荷時の状態に戻すことも可能です。

3.トレサビリティ体系図が発行可能

ハンナのシリカ計を始めとするポータブル吸光光度計はトレサビリティ体系図の発行が可能です。品質管理などを実施する際、すべての基準となる計測器の精度が担保されていることは事業者にとって必須事項ですね。校正証明書、検査成績書、校正体系図をご希望の方はお気軽にご相談ください。製品を購入後、定期的にトレサ発行を希望されるお客さまもいらっしゃり、実績もございます。

サンプル:校正証明書・検査成績書・校正体系図

4.コンパクトさの利点

 ハンナのシリカ計は測定精度が担保されつつ持ち運びできるサイズであることが強みです。据え置き型ではないので、複数個所で測定する際に測定器を簡単に移動させられるため、新たな作業工数を確保する必要はありません。

 測定者にとってもっともネックな事といえば、測定器になんらかの不具合が発生して測定できなくなった場合です。据え置き型ですとメーカーに問い合わせてから点検を行うまでの時間、点検の結果修理が必要となった場合には修理が完了するまでの時間に測定することが難しくなります。代替機を提案されたとしても、測定メカニズムが異なるとコリレーションが必要になるので測定結果の信憑性を担保するのが難しくなります。

 一方でハンナのシリカ計なら、万が一トラブルが発生しても測定器を新品に交換することで業務のロスタイムを最小限に抑えられる点は安心材料と言えるのではないでしょうか。

5.導入事例多数

 ハンナのシリカ計は下記のような様々な産業のお客様にご利用頂いています。

・ボイラー水のスケール対策
・工場排水の検査
・ガラス製造の品質管理
・医薬品製造におけるシリカの含有率計測
・製紙
・めっき加工
・先行開発

6.国内スタッフによるサポート体制

 アメリカに本社を置くハンナ・ジャパンですが、お問い合わせや出張サポート、点検は国内の日本人スタッフが対応しています。専門性の高い課題に置いては、本国のアプリケーションエンジニアと連携することで世界の知見をベースにお客様をサポートする体制が整っています。

※注
 半導体製造に使用する純水に含まれるシリカを測定する際は、測定レンジが㎍/Lとなるため、ハンナの測定器では測定できかねます。また連続計測できる装置についても現状ご用意がありません。何卒ご容赦ください。
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