広島県は日本を代表する牡蠣養殖の産地の一つであり、日本国内はもちろん、海外からも高い評価を受けています。そんな牡蠣の養殖に欠かせないのが栄養源のクロロフィルです。今回は広島工業大学でクロロフィルの分布状況をリアルタイムで監視する研究を行う濱崎先生のもとにお邪魔しました。
牡蠣養殖の方法とは
広島湾内では各所で牡蠣の養殖が行われています。代表的な養殖方法が海面養殖で、養殖場の海面に筏を浮かべ、その上に籠やロープに牡蠣を付けて育てる方法です。海水中のプランクトンを餌にして育成するため管理のしやすさが利点です。
稚貝を育てる際は潮の干満(3〜4m)を利用して、水深が浅いところでじっくりと育てます。稚貝が育ったら水深12mくらいのエリアに移して育てていくそうです。
クロロフィルとは
上述のとおり牡蠣の餌になるのがプランクトンで、プランクトンの細胞内に存在する緑色の色素をクロロフィルと呼びます。牡蠣はこのクロロフィルを栄養源にしており、1年の年月をかけて育てます。
こんな研究されています
とはいえ川の河口や海流、地形など様々な要素が複雑に絡むため、湾内のクロロフィル濃度が均一になることはありません。筏付近のクロロフィル濃度が低下すれば牡蠣の生育に影響を与えます。そのためクロロフィル濃度が濃い場所へ筏を都度移動させる必要が出てきます。
目に見えないクロロフィルの分布状況を見える化して効率的な牡蠣養殖に活かすためのシステムを研究開発させているのが、広島工業大学の濱崎先生です。
「2年間研究を続けたことで、クロロフィルのピークは5月と7月であることが分かりました。地球観測衛星のSentinelが撮影した画像も分析をします。分解能が10mなので海上の状況をマクロに把握することは可能なのですが、現地で観測してみると、実測値とは差異がありました。なので私たちの研究が必要になってきます」と濱崎先生。
表面だけではなく水深方向のクロロフィル濃度もわかればさらに利便性が高まるのではないか、そんなことを考えていましたが「河口の流れや地形の影響が大きく、これまた難しい」と流れの世界の複雑さを教えていただきました。
「現在は測定したクロロフィル濃度と撮影した色の濃度の相関性を示したグラフを制作しています。ちなみにクロロフィルは光によって増えますが、日照量と完全に比例するかと言ったらそうではありません。2年間の計測で測定地点ごとの傾向は見えるようになってきました。河口からの流入量、そもそもの海流、地形が複雑に絡み合うため、湾の中でも場所によってクロロフィル濃度が高まる時期は異なります」
測定用のブイをみると黒と白で識別されたマークがありました。「AIは画像の選別に使用しています。そもそもAIに何を学習させるべきなのか目的を明確にする必要があります。AIが画像を識別しやすいような前処理の工夫が必要。目標はマイコン込みで1万円で作れるようにしたい」と実用化に向けた話しも進みます。
今後は海水の塩分濃度とクロロフィルの相関性を本格的に分析していくとのことで、今後の展開が楽しみな限りです。濱崎先生、ありがとうございました!
取材:鈴木 高橋