基礎から学ぶ陸上養殖とバクテリアの関係。溶存酸素よりも大事な指標

アプリケーションノート

 人口動態、産業、地理的な制限などが重なり、これまで水産養殖は沿岸地域で行われるのが一般的であり、また輸入品に頼るのがこれまでの日本でした。しかしながら労働人口の減少、AI化社会による産業の再編により水産養殖は大手企業も巻き込んだ注目の事業となっています。今回は水産・陸上養殖を進めるうえで欠かせない窒素循環とバクテリアの基礎知識をおさらい致します!

水質測定器メーカー ハンナ インスツルメンツ・ジャパン
水産養殖では好気性バクテリアと嫌気性バクテリアのバランスが欠かせません。優位性を知るにはORPが指標となります。
世界46か国で展開する水質測定器の専門メーカー
ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社

窒素循環のおさらい


 窒素は水中のアンモニア(NH3)、亜硝酸(NO2)、硝酸(NO3)などの形で存在し、これらは養殖環境内で相互に変換されます。この窒素循環は次のような過程で行われます:

アンモニア(NH3)
 魚の代謝や排泄物から生成され、毒性が高く養殖水中にアンモニアが蓄積すると水質を悪化させて養殖魚の死滅につながります。

亜硝酸塩(NO2)
 アンモニアは好気性バクテリアによって亜硝酸に変換されます。亜硝酸塩も毒性があり適切な処理が必要です。

硝酸塩(NO3)
 亜硝酸はさらに好気性バクテリアによって硝酸に変換されます。硝酸塩になると毒性はかなり低くなりますが、それでも高濃度の硝酸塩は有害です。

窒素(N)
 嫌気性バクテリアによって硝酸塩から変換される無害な物質です。

バクテリアの役割


 バクテリアは窒素循環において不可欠な役割を果たします。好気性バクテリアと嫌気性バクテリアはそれぞれ異なる段階で窒素化合物を変換します。

好気性バクテリア
 文字通り空気(酸素)を好むため、水中に生息します。好気性バクテリアはアンモニアを亜硝酸塩、硝酸塩へと変換します。この過程において、好気性バクテリアに酸素を供給する必要があり、適切な酸素供給が重要です。好気性バクテリアが活発ですと、水中の窒素循環がスムーズに進行します。

嫌気性バクテリア
 このバクテリアは酸素を嫌い、通常は土壌や水中の低酸素環境にに生息します。嫌気性バクテリアは硝酸塩を窒素に変換します。

水質管理とORP

 窒素循環に関連して、養殖環境のORP(酸化還元電位)の測定が重要です。というのもORPはバクテリアの活動を判断するための指標になります。ORPが高い状態は酸素が充分に供給されていることを示し、ORPが低い状態は酸素不足を示します。バクテリアの硝化活動によって酸化還元反応が起こるため、ORPが高ければ好気性バクテリアが優位であり、ORPが低ければ嫌気性バクテリアが優位な環境と言えます。

 アクアリウムとは異なり水槽の中に多くの魚が生息している養殖においては、アンモニアが堆積しやすい状態です。そのためORPが高い状態を作ることでアンモニアを硝酸塩に変換しやすい環境にすることが大切になります。

 アクアリウムなど魚が生息する水槽のORPは一般的に300mVと言われますが、水産養殖においてはその2倍となる600mV前後でもよいのではないか、とも言われています。

 酸素供給を増やす方法として、マイクロバブルを投入することが有効です。

ORPを引き上げるには

 ORPを高めるめには酸素が必要です。水中の溶存酸素量を増やすならマイクロバブルを投入することが有効です。これにより、養殖環境に酸素を供給し、好気性バクテリアの活性を高めることができます。
そのため溶存酸素量(DO)を指標とすることで、好気性バクテリアにとって最適な環境なのかを判別するケースもあります。

 水産養殖において、バクテリアとORPの理解は水質管理の成功に欠かせない要素です。水中の生態系を理解し、魚や貝類の健康と生育をサポートするために、これらの基本原則が役立つことを祈ります。
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